第十九話 F-shipの船出

小麦を育てる人、小麦を粉にする人、パンやお菓子や麺にする人…。これら小麦をとりまく全ての人々が、お互いの思いを分かち合いながら最良のものを作りげていきたい。試行錯誤を繰り返し完成した製粉機は、F-shipと名づけられました。「F」は、小麦のFlour、農場のFarm、食べ物のFood、素晴らしいの

Fine、ぴったりという意味のFitの頭文字から。「SHIP」はSmall-scaled Highly Intensive Plant、小規模高集約型プラントの文字から選びました。また、友情のFriendship、共同体のFellowshipの意味も込められています。

 

たくさんの人々と小麦で結ばれていく不思議。研究者、生産者、加工業者、消費者といった、さまざまな立場や環境の人と出会い、対話を重ねるうちに見えてきた答えが、江別製粉の新しいカタチとして稼働し始めたのです。人々が小麦に求めるものは、千差万別。「メーカーにある既存の粉ではなく、自分好みの粉でパンが焼きたい」「自分の栽培した小麦を食べてみたい」「単一品種の小麦が欲しい」「地域の小麦で特産品を作りたい」。たくさんの声が江別製粉の未来を指さしていたのです。

昭和23年に産声を上げてから、粉を挽くことだけに心血を注いできた江別製粉。そのなかで出会ったハルユタカという奇跡の小麦によって、変化し続けてきた製粉会社としての道。ただ単に小麦を粉にして納めるだけではなく、農家をめぐり、畑を歩き、ハルユタカの生みの親である育種家やパン教室の先生などを訪ねた四半世紀。これまで少し遠かった、小麦畑と食卓の距離を縮める役割を担いたい。小麦畑が身近になれば、そこでとれた小麦粉や、今まさに口にするお菓子の味が少し特別なものに感じられるはずです。

 

F-shipの完成により可能になった、オリジナルブレンド。小麦の品種や産地、原料の配合、粉の粒度、歩留まり。要望に細かく対応できるオーダーメードの小麦粉が江別製粉の強みとなります。大量の小麦を大量に粉にすることも巨大マーケットとして必要ですが、私たち江別製粉は違う方法で貢献したい。幾度かの時代の変化のなかで、その都度、社運をかけ機械や工場を強化し乗り越えてきたのです。会社の設立から約60年。2004年(平成16年)に誕生したF-shipは、江別製粉の新しい船出の始まりでした。