第十八話 高性能・高品質を目指せ

大型設備で作る小麦粉から、ミニマムで高品質な商品づくりへ。地産地消を実現するための小さなプロジェクトXが動きだし、江別製粉は新しく針路をとって進み始めました。1トンの小麦を挽く高性能製粉機。安孫子建雄が自ら図面をひき、機械の専門家と試作機を作っては一緒に検証しながら、一年に亘って造りあげていきました。

 

製粉機の心臓部となるローラーミル。2種類のローラーの回転比を変え、それぞれが違うスピードで回るようにすることが品質上のポイントになります。小麦は挽き潰してしまうと皮との分離が難しくなってしまうため、厳密に言えば挽き割りでなくてはなりません。粉のキメの細かさや粗さも、ローラーによって決まるのです。そのため強制的にスピードが変わる仕掛けをベルトプーリーを用いて施しました。また元来、ローラーは熱によって膨張し、それ自体の膨らみよってミルの加減が変わってしまう性質があります。けれど長さ300ミリ、直径240ミリの短いローラーであれば温度変化にも耐えられ、粉への影響を抑えることができます。篩い(ふるい)は一番小さなサイズを導入。ベアリングも既存で売っている最良のものを取り入れることで、機械の原理を極力シンプルに仕上げることにしました。

これは江別製粉にとって、とても面白い挑戦でした。大抵は工場を大きくし、設備を拡大するのが世の常。それをわざわざ、生産ロットを小さくする取り組みをするのですから、常識に逆行する行為です。しかし何度もテストを重ねた結果、既存の機械に劣ることなく、同等の性能と生産性、そして品質を望める数字が確認できたのです。これでいよいよ名実ともに、F-shipを現実のものとして誕生させられます。

 

「やっと単一農家、単一品種での製粉が可能になる」

 

この小さな革新が、どれほど多くの可能性を秘めていることか。その先の未来に向かってフル回転で粉を挽く、元気なF-shipの姿が見えるかのようです。1時間で700キロの小麦を製粉し、7時間で1日約5トン。ひと月にすると100トン以上の成果をあげていきました。小さくして、どこまでいけるか。それが挑戦のテーマでした。農家の皆さんが精魂込めて作った小麦を、品質のよい小麦粉として世に送り出すのが江別製粉の誇り。たくさんの夢がつまったF-shipが大海へと漕ぎだしたのは、平成16年(2004年)のことでした。