第十七話 F-shipの夜明け

「地場の小麦を極める」。それは同時に、農家単位、品種単位の世界が待っています。道産小麦に力を入れてきた江別製粉のもとへ、地場の小麦を粉にして利用したいという依頼があったのです。生産の合理化だけを考えれば、大型で大規模な工場での加工になり、どうしても農家も品種も混合して製粉しなくてはなりません。それでは地産地消とは言えなくなります。少量の小麦を挽くには、どうしたらいいのか。人力に頼り石臼で挽くのか、それとも小さな粉砕機を使うのか。どちらにせよ、今までのような品質を保つことができず、自社の粉をお客さまや利用者に胸を張って売ることができません。それでは素人とかわらない…。

 

どれくらいの量なら引き受けられるのか。100キロ? 500キロ? それとも1トン? 2トン以上になれば、他の製粉会社と変わらない規模になり意味がない。100キロだと手間もコストもかかり、高い小麦粉になってしまう。1トンだと生産者もトラックの荷台に小麦を載せて運べるほどの量。これならば、どうだろう? そこから更に計算は続きます。1トンの小麦からは700キロの小麦粉。それをパンや麺にしたときに何百食となるのか。そのときの卸値や希望小売価格への影響はどうか。おおむね良好という、数字が並びました。これならば生産地や生産者がハッキリわかる小麦粉が誕生する。まさにトレサビリティにかなう結果となります。

地産地消を可能にする、新しい製粉機を導入しよう! 建雄の描いていた地元に根ざす企業方針。その構想が走り出しました。オーダーメイドで小麦粉を生産するF-shipプランです。小型の製粉機といえども大型機と変わらぬシステムで、20セクションもの工程を組み込むこと。コンタミネーション(混ざる)を極力排除し、前回の分を残留させないこと。最初に出てくる粉を滞留させ、後からできる粉と循環し混合することで、商品の均一化を図ること。たとえ1トンであっても、5トンと変わらない品質をキープすること。それらは江別製粉の長きに亘って守り続けた誇りでもあります。しかしそれに合う機械など、どこにもありません。一から作るほかないのです。工学系を専攻してきた建雄の腕が試されるときがやってきました。