安孫子建雄が江別製粉に身を置いて10年。この間、会社では機械のほかに商品を扱うことへの工夫も成されてきました。立体倉庫への転換です。今までの倉庫は業務用の袋が山積みされ、最下層にある粉が上部にあるものに比べ、どうしても劣化する恐れがあったのです。そこで考えたのが立体式倉庫。パレットに積んだ粉を、パレットごと棚に収めていく方式です。これならば積載する手間も簡単になり、加えて粉への負担が劇的に軽減されます。出荷する前の小麦粉を、最良の状態で保存したい。これは製造過程における生産性と品質向上の延長線上にあることでした。
ところが、この立体倉庫の存在は思わぬところに飛び火します。わざわざ大手の家具屋さんが見学に来たのです。それまで同業他社が来ることはありましたが、家具屋までとは…。その真相は、後になって判明します。それまで店舗で完成品を買い、配達してもらっていた家庭の家具が、組み立て式の家具へと進化。段ボールに入って届く時代になっていたのです。その段ボール入りの家具を、そのまま立体倉庫の棚に保管することが、見学の目的だったようです。今では当然の流通システムですが、まだまだ先駆けだったことが伺えます。
さて発想の建雄は、競争が続く毎日に危機感を抱き、改めて商品を見直すという考えへと転換を求めました。麦と粉の品質、商品としての価値。そういったものに、もっと力を入れていきたい。そう考えた建雄は、社内の仲間にアドバイスを求めます。仕入れた小麦や商品である粉の、品質管理を任されている鷹觜(たかはし)昭三でした。
「これからは地元の時代じゃないかなぁ…」
ポツンとつぶやくように言った鷹觜の言葉が、建雄の心に響きます。ずっと胸の内で考えてきたことを、品質の専門家が口にしたのです。その言葉は、ボンヤリと思い描いていた気持ちを決定的なものにしました。輸入の小麦と違う、国産・道産の小麦に注目し、その特徴を活かした粉にシフトしていきたい。それが建雄の考えでした。
「これからは地元の時代」。それが江別製粉の密かなスローガンとなりました。時代は昭和から平成へと変わろうとしていたころです。
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