粉屋、畑を歩く1

皆さん、こんにちは

粉屋の安孫子です。

 

限られた主婦の方々の間で、家庭でパンを焼くという傾向が急激に増えるなか、国産小麦に注目が寄せられるようになった平成初頭。それまで小麦を仕入れ粉にして卸すことが主だった私たちにとって、それは驚くべき時流の到来でした。消費者が小麦の銘柄を指定して購入するなど、考えてもいないことです。しかも、プロである製粉業界が相手にしなかった、あのハルユタカ。

 

「これは面白いことになるかもしれない」

 

そんな興奮が胸の内に沸きあがってきました。何としても生産量をあげ、多くの人にハルユタカの美味しさを知ってもらわなくはなりません。自身の喜びと何とも言えない使命感が私たちを突き動かしていたのです。問題は作付面積の拡大と確実な収量のアップ。それにはハルユタカを育ててくれる農家さんを増やすことが先決です。

北海道は春が遅く秋が早い。どんなに雪割りをして畑を整えても、そこから種を蒔いていては遅れをとり、天候の変動が大きい季節に収穫期を迎えてしまいます。台風や長雨にやられると小麦はひとたまりもありません。他の国産小麦より生育が難しいとされるハルユタカは、小麦農家にとって敬遠されがちな品種。そこで私たちは考えました。「ポット栽培による苗を植えてはどうか…」。種から始めるよりも半月は早く育ち、畑に入ってからの成長期間が充分にとれます。それが丈夫で収量の多い小麦になる、大きな条件の一つです。

 

北海道におけるポットでの苗の植え付けは、主にビートで行われてきました。砂糖の原料となる甜菜ビートは、冷涼な大地に適した作物。広大な十勝の農地で大規模に生産されています。ビートでできるなら、小麦でも…。そう考えていた矢先、ポット栽培の先駆者であり、ビートを全道に広めたビートの神さま 日本甜菜製糖の髙木嵐司会長が、小麦のポット栽培を手がけていることを新聞で知り、私たちの奇想天外なプロジェクトへの協力を仰いだのでした。